2015年3月29日日曜日

トゥクタミシェワは女プルシェンコ。

世界フィギュアが終わりました…

終わってみれば、女子は宮原知子ちゃんがロシアの2強の間に割って入る銀メダル。
男子の方は、予想に反して?出場枠を減らす結果で、満身創痍の羽生ちゃんだけが一人気を吐いていた、という内容でした。

個人的には、試合としては緊迫感あふれる非常に興味深い内容でした、男子シングルも女子シングルも。
が、しかし…この感じだとオリンピック前年あたりに、また「表現力重視」的な大きなルール改正が来るかもしれんなあ…と感じさせる大会でもありました。

ざっくり説明すると、現行ルールの大きなポイントは、確か、ショートプログラムでは1回転のジャンプはゼロ点。フリーになると2回転ジャンプを跳ぶ回数に制限(確か3回以上飛べない)がかかります。そして、今までと同じように同じ種類のジャンプは2回までしか飛べない、しかも2回飛ぶときは1回をコンビネーションにしなければならないというルールもフリーでは課されています。

こうすることによって、男子の場合、4回転ジャンプを1回は入れないと、ジャンプの構成が非常に厳しくなるという問題が出てきます。
女子のケースでも、トリプルアクセルや4回転が飛べるとジャンプの構成が作りやすくなることは間違いない。

さらに、すっぽ抜けとかタイミングが合わないとかで予定よりも回転数が少なくなると、その後で飛ぶジャンプの構成を変えざるを得ない危険性が出てきて、例えば3-2-2の3連続が飛べなくなるとか、構成を変えられないと1個まるまるジャンプの点がなくなるとか、大きな失点を招きやすくなる。
つまり、高難度の技を入れる必要はあれど、1つミスをすると後の予定が大幅に狂う危険を伴い、見た目の演技の良さよりもガツンと点数が下がる、差がつきやすい採点方式になっているわけです。

これで一番得をしたのが、女子で優勝したトゥクタミシェワであることは間違いありません。

もともと、高難度のジャンプが非常に得意な彼女。
トリプルアクセルの習得に努めてもいたようで、ショートプログラムで披露してくれました。
実際、ショートプログラムで披露したジャンプはどれも完璧でした。
フリーでは、トリプルアクセルを跳んで他の高難度のジャンプも入れられるほど体力がないのか封印しましたが、ま、多少のミスはあれど転倒もなく、滑り切りました。
結果、2位の宮原さんとは17点ほどの点差に。

が、演技全体を見ると、特にフリーはそこまで差がつくような内容でもない。
要は、芸術性がないのです。
振付、超テキトー。
BGMに併せて、概ね腰やら手やらをくねくねさせるだけ(ショートとフリーで曲調は違えど、振付の基本路線は全く同じ)。
ステップのところでは、手をやたらめったら振り回す(よって、肝心のステップワークがどうなっているのか素人は目に入らず)。

ジャンプは威勢よく飛んでたけど、どんな曲だったっけ?どんな振付だったっけ?

と、プログラム全体のイメージが全く記憶に残らない即物的かつ刹那的なプログラム、なわけです。

これ、トリノ以降のプルシェンコと全く同じ傾向です。
「女子フィギュアは進化すべきだ。女子も近い将来、3回転半を跳ぶのが普通になる時代が来る」
という、トゥクタミシェワの話は正しいと思うし、フィギュアがスポーツである以上、技術的進化を目指すべきであるということは、完全に支持したい。
実際、トップクラスの女子選手の比較的多数が、現在トリプルアクセルの取得に励んでいるという話もあります。
日本の新星、ジュニアの樋口新葉ちゃんなんて、4回転も一緒に練習しているっていうし。

が、しかし、だからといって、あそこまで振付蔑ろにするっちゅうものどうなんだと思うわけであります。
おそらく、トゥクタミシェワの「跳んでなんぼ、回ってなんぼ」という価値観は、伊藤みどり以上で、女子選手であそこまで突き抜けて、そこに特化しちまった人というのは初めてなんではないかと思うのです。

日本人の多くは、浅田真央ちゃんにトリプルアクセルの成功を求めていました。
しかし、それは、真央ちゃんに可憐な容姿、可憐で時に華やかな表現力が備わっていたことが前提なんであります。
「跳んでなんぼ」なだけのフィギュアにしてしまったら、はっきりいってそれは身体接触のないプロレスと同じなわけで(ちょっと言いすぎか?)、発祥が氷上のバレエというフィギュアの歴史に重い重い蓋をしてしまうことになるだろう、そう思ったりしちゃうのです。

やはり、バランスですよ、バランス。何事もバランスが大事。

男子だって、フェルナンデス(我が家では、美姫夫と呼ばれています。)が優勝したのは、今の採点方式が物を言っているわけです。
これ、ソチのころのルールでやったら、3位までの順位変わっていたかもしれません。

フェルナンデス、羽生ちゃん、デニスの3人で、技術力と表現力のトータルバランスが一番すぐれているのは、現時点ではおそらくデニスでしょう。あの年にして、あのフリーの難しい曲を飽きずに見させる重厚な表現力はたぐい稀な才能としか言いようがありません。

羽生ちゃんも、オリンピックチャンピオンになったことによって、クラシックもきちんと踊れる表現力が身について、フェルナンデスよりはバランスがいい。
羽生ちゃんは、怪我とか病気とかの影響で十分な練習が積めず、フリーでは大きなミスをしてしまった。だから、今の採点方式では、この順位になったのは仕方ないかもしれない。
しかし、ジャンプ頼みで表現力やスケーティングの技術がふたりに比べていまいちのフェルナンデスとの差は、ソチのころの採点方式であれば、もっと小さかったと思うし、下手すると、デニス・羽生ちゃん・フェルナンデスという順位もあり得たのではないかと思うのです。

ま、でも、ダブルアクセル・ダブルトゥループ・ダブルトゥループというふざけた難易度のジャンプでキム・ヨナが銅メダルをかっさらうことができた過去のルールよりは、スポーツとしてのフィギュアを考えると、ある意味公正でましな採点方式なのかもしれませんが…

だって、うますぎるほどうまいけど、圧倒的に地味な宮原知子ちゃんが初出場で銀メダル採れるなんて、一昔前では考えられないことでしたからねえ…
(注:宮原さんのうまさというのは、おそらく玄人受けするもので、例えば、ジャンプを降りた時の着氷してない方の足の位置がお手本通りのところにあるとか、ビールマンを回る時の背中の弧のラインが美しいとか、そういうところにあるのです。うーん、日本人)。

フィギュアって、難しい。改めてそう感じます。

さて、日本人選手の話に移りたいと思います。
まず、女子。巷では、女子は、期待されていなかった。下手すると、今までキープしていた出場枠3を2に減らすことになるのではないか、と危惧されていました。
が、ハヤシは、あんまり心配していませんでした。

おそらく、宮原さんは5位以内に入ると思っていたし、佳菜子ちゃんか本郷さんもどちらかは(おそらく本郷さんの方)8位以内になるだろうと思っていたのです。
宮原さんは、安定感抜群ですし、本郷さんも(結構おおざっぱだけど)、今年シニアデビューのわりに国際審判の評価はまあまあ。度胸もあるし。おそらく、悲惨なミスはないだろうと踏んでいました。

結果は予想外に良かったです。
さっきもちょっと書いたけど、宮原さんのように確かな技術と全身を使った表現力はあるけど極めて地味という子が、どこまで評価されるのか、すごく心配ではありました。
しかし、1つ1つの技が基本に忠実にクリーンにできるというのは、予想以上に審判に評価されたようで。こういうまっとうな選手が評価されるというのは、非常にうれしいことです。

実は女子に関しては、ショートの前半を見ていなかったのですが、佳菜子ちゃんがかなり頑張ったらしいっすね。
でも、フリーで沈んでしまった。
去就について微妙な発言をしているようですが、まあ、迷うところだよねえ…本人、何が根本的に悪いのかわかってないもんねえ、たぶん。

おそらく、バンクーバー後の真央ちゃんがやったみたいに、基礎を全部やりなおす、くらいの覚悟がないと、根本的大改革はできないと思うのですが、そこまでの根性や執着は、ないんだろうな、佳菜子ちゃん…
まあ、オフシーズンにゆっくり考えてくださいませ(あんまり長くないと思うけど)。

男子。
ショートの結果、無良くん23位(つまりフリー出場者のうち下から2番目)、小塚君18位と聞いた時点で、男子フリーの見どころは、私の中で、「この二人がどこまで順位を上げてくるか」という、箱根駅伝でいえば、シード権争いを見るような気持ちになっていたのでした。
だって、来年に3枠残すためには、上位ふたりの順位を足して13以内じゃないとだめなわけでしょ。もう、どっちかに上がってもらうしかない(ま、半分あきらめてましたけど)。

とか言っておきながら、この二人のフリーについては、風呂に入る方を選択して見ていなかったわけなんですが(結果だけわかりゃいいかなとか思って)、結局小塚君が12位まであげたものの、羽生君が惜しくも銀メダルだったため、足して14というスケ連にしてみれば、泣いても泣ききれない結果に…

ハヤシ的には、実は男子こそ危ないんじゃ…と思っていましたが、さすがに無良くんは10位以内に入れるだろう、そしたら、羽生ちゃん銅メダルでもなんとかなるし…という胸算用が大誤算。

ああ、マッチーがせめて引退を伸ばしていてくれれば。
もう、この際、織田信成でもよかったんじゃないか。
なんて思ってしまいました…

小塚君に関していうと、本人には本当に申し訳ないが、全日本で余計なことをしてくれた、という思いでいっぱいです(つうか、マッチーが悪すぎたんだけどね)。
あのときがたまたまよかっただけなんだよな、たぶん。

バンクーバーの翌年、世界選手権で銀メダル採った時の地力なんて、もう残っちゃいないんだよね。
4回転を安定して飛ぶ技術も習得できず、かといって、ジェイ子(ジェイソン・ブラウン)みたいに、自分が持つ3回転のジャンプで点数を稼ぐ方法を考える機転も利かず、表現力もちっとも向上しない。
現行の採点方式についていけない老兵になってしまった、そんな感じです。
今回は振るわなかったものの、27歳のボロノフがあそこまで頑張ってついていけているのを見ると、「やるなら、ちゃんとついてけるようにやんなさいよ、あんた」という気持ちです。

どうやら、彼も去就については微妙な発言をしているようですが、ハヤシ的には引退勧告かな。
日本男子フィギュアを難しいことにしないためにも、去っていただいた方がいいように思います。
そして、来季はおそらく宇野昌磨くんがシニアに上がるだろうから、羽生ちゃんと宇野くん、ときどき無良くんと村上大介くんで頑張っていただきたい、のであります。

ところで、さっきちらっと名前を出したジェイ子。
ジェイ子、頑張りましたよ。4回転飛べないのに、4位に入りました。
さすがに今後4回転飛べないとメダル争いに食い込めないのは間違いないと思うけど、個性的な世界観と表現力(氷上ではオネエ感はあまりない)、3回転ジャンプのGOEを稼ぐテクニックで、高難度の技に失敗した人がポロポロ落ちてくると、案外相対的に上を狙えるということもわかりました。
これ、ジャンプが苦手な選手には参考になる戦い方かも。

そして、これって、「スピードもなく駆け引きもできないけど、自分なりのスピードでイーブンペースで走った結果、落ちてくる人を抜いていって、最終的に上位に食い込んだ」という極めて日本人的なマラソンの戦い方にも似ているわけで、案外、スケートというのは長距離走的要素があるのかも、なんて思ったりするのでした。

でも、個人的にはジェイ子にはメダル採ってほしいな。
頼むよ、ジェイ子!!

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